人気ブログランキング | 話題のタグを見る
on iPodは犠牲?
on iPodは犠牲?_a0016843_0323780.jpg

僕は動物、だ。
[一気に開花するまでコンマ0.3秒、
眠っていて、あることすら知らなかった
五感が研ぎすまされ、動物的な何かがうなりを
あげ始めるまでの猶予時間]

[序文]
今夜、珍しいお客が部屋を訪れてきた。
エンマコオロギ
(と書きたいところだが、第一そこまで
 大きくて、貫禄もないことは一目瞭然。
 しかしなんとなくだが、ハチ、よりも
 アシナガバチ、とか
 少年、よりも
 わんぱく少年のほうが説明した気に
 なることが多いじゃない?
 ある巨匠曰く、分からないことは
 分からないとして書くのにこしたことないし、
 それは絶対にエンマコオロギでもなんでも
 なかったけれど、小ささ故に
 エンマコオロギの子、としておこう)
だった。
いつもは飛び跳ねるクモが8割型の
常連なので、こいつはレア。

少しでも素足の親指でつつこうと
近づこうものなら、彼はものの見事に
優美な曲線を描いて20cm先まで飛び跳ねる。
遊び半分なこっちの意図と反して、
彼は生存目的、第一線かなんかで、
必死に逃げているんだろうな。

僕が冷蔵庫からキンキンに冷えた、
横浜市の水道水を出そうと立ち上がると、
彼はたずねもしないのに、僕の追跡にでも
逃れるかのように半歩先をピョンピョン
跳ねていく。
どこまで跳ねるのかと思いきや、なんと
そのまま冷蔵庫のしたへ。

。。

そしてどうやら聞き取れる音からすると、
彼は通常可能な「歩行」よりも、
未だに20cmの飛躍を冷蔵庫下で試みているらしく、
ラジエータにパシパシ当たっているではないか。

お前は、痛みとかダメージとか、負わないのか。
生き物ながら。

昆虫博士ではないから、動物の痛みの認識とかについては
分からない。でも生存のために逃亡する身として、
なんらかの犠牲を被っていることは、
多かれ少なかれあるだろうし、実はちょっとあってほしい。

トカゲのしっぽの切断は痛みを伴うのかどうか、
知らないけれど、痛手を負うことは確かだろう。
なぜならまた生え変わるシッポを待つ間は、
少なくとも新たな強敵とは遭遇したくないだろうから。

手足を自由自在に再生できたドラゴンボールのピッコロも、
そうだっただろう。原状回復はできても、
多少なりのエネルギー損失はいなめない。

[本文]
今日、身の毛のよだつ思いをした。
仕事の合間を縫って、Book 1stの雑誌売り場で
立ち読みをしていたときだ。
不特定多数の人が集う雑誌売り場だからこそ、
色んな読者、お客さんがいることは当たり前だ。
(対する自然科学、古典文学売り場は偏見だが、
ある程度のナードの集まりが目に見える)

ふと、斜め右後ろ2mぐらいの位置で妙な動きをとる
男性の姿が視界に入った。
読んでいた雑誌から目を離し、その方向をちらりと、
ではなく、じーぃっと、凝視してしまったのが間違いだった。
相手は180cm、98キロぐらいの恰幅のよい男性。
友達だったら、誕生日にラガーシャツを贈ってあげたい
ような人。
だが明らかに形相がおかしく、
そして明らかに僕は必要以上に見つめすぎてしまった。
2秒。3秒。

外国で育ったこともあって、視線のやりとりが
「よし」とされる習慣が未だに離れない。
もちろんこっちでは「見すぎない」ことも覚えた。
だが、何かが惹き付ける彼の眼球を、まるで
現代美術作品でもあるかのように眺めてしまった。

はたと正当さに欠ける、自分の行動を顧みて振り向いた時には
時既に遅し。じっと見つめる雑誌のページよりも、
斜め右後ろ2mも見えるその視界には、彼のこちらへの
動きが捉えられていた。

次の瞬間、自分の神経がきゅっ、と張りつめるのと同時に、
ぎゅっ、と高まる集中力と聴力が、まさに「聞こえてきた」。
身の毛がよだち、血管の血流が確かなものにさえなった。
意識がぐっと覚醒し、足が僅かに軽やかになると同時に、
上半身になんとも言えない重たさが備わるのを感じた。

これが、危険を察知した時の、動物的本能の働きだ。
そしてこれは、前にDISCOVERYチャネルで見た猫の特性や、
ゴリラの戦闘態勢、同じ種族を守るため、いや、自分の
3分後の生存を確保するための前準備だ。
みなぎってる。
ぼーぉっ、とした人間が
発揮できる力じゃないぞ。これは。
は、そして、なんだか視界がさらに広がった。
左後ろまで、見えるぞ。
モード系の、前髪がちびまる子の彼女が
真剣に読むダイエット本。それ、あんたには効果ないぞ。
そして、肝心の彼の目は、殺意モンモンだ。
見ただけて氷が溶けるほどの熱を身ごもっている。
しかし、どうするんだ。
持ち物が明らかに多すぎる。
身軽でいることが、逃走にも闘争にも有利だ。
しまった。今日はパソコンも持っている。
デジカメも、iPodも、本もさっきモリモリ買ったばかりだ。
何が犠牲になるだろうか。
とっさに飛んでくるのは、最初は右フックか、
それとも一気にみぞおちか。
まずいな。右利きだったとしたら僕は右を向き、
もろに顔面に受けるよりも、左をさらりと向いた方が
ダメージは抑えられるだろうが、さすがに
自分の真後ろは見えない。やり合う時に背を向けるのは
いたって非常識だ。
しまった、シャツ、伸びてほしくないや。
これからまだ一仕事あるというのに。

これでものの0.3秒ぐらいだろう。
そして運命の未知との遭遇。
。。
。。

微動だにせずに、結局雑誌を読み続けたが僕だが、
彼は僕の右後ろを通過して、(多分)
左にでてくるまで4秒、(多分)
気が気でなかったけれど、4秒はかかっていた。
やはり遅すぎる。
半透明な陰が後ろを横切るのをじっと背中が
見つめていた、その間4秒。

結果、何も起こらずに、
当たり前だけれど、ことは終焉を迎えた。
でも間違ってもこちらを未だに左前から凝視しながら
歩んでゆく彼に目を向けることはしなかった。

雑誌の活字はさきほどとは打って変わって、
意味を含有しない象形文字以下の曲線にしか
見えなかったが、それを機に、覚醒が一気に
吹き飛んだ。だらんとした肢部は気づいたら
元に戻っていた。

動物的本能は、善くも悪くもたくさん丸みを帯びた
社会では発揮される機会が少ないはずだ。
でもそれは必ずしも我々が無機質で高等な
人間に進化(退化)していっても、奥底で
じっと眠って、密かに我々に宿っていることには
なんら違いない。
個人的には意外と便利な発見だったけれど、
それは火事場のバカ力的なものでもあり、
究極的逆行や危機、生存が危ぶまれるイベント性のなにかと
直面しないかぎりはおそらく知る術もないだろう。

いささか大げさだったかもしれない。
でもこれでも自分にとってはまだ表現しきれていない
0.3秒がまだまだたくさん残っている。



でも最後に残るのは、これ。

[自分が自分の生命の危機を迎えた時、
自分はコオロギやトカゲのように
果たして何を犠牲にして闘えるのか]
by eclipseted | 2005-08-28 00:34 | [友people達]
<< on "engine... on 3クリック先の隠れミノ >>